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不意に楽屋のドアがノックされた。

『しつれいしまぁ〜す。』

彼と共演中の後輩くんだった。

 

この後輩君とは、彼のソロコンのときに会ったことがあって、

そのとき一緒にお食事もさせてもらっていた。

『あれ〜?!わぁぁぁぁ沙織さんだぁぁぁぁぁ〜っっ。久しぶりですっっ。

会いたかったですっっ。』

『ふふふっ、お邪魔してマス。久しぶりっ。会いたかっただなんて、お世辞でも嬉しいよっ』

彼らへの手土産は新鮮なイチゴにした。

それを皆さんでどうぞ、と手渡しながら少し痩せた彼の顔を見る。

『お世辞だなんてとんでもない。ホント、あの食事会以来、沙織さん僕らのアコガレですから!!

今日は…。【彼】からの【彼女】へのS.O.Sですか?()

 

彼とのことを、しっかり彼女として認識してくれて、

しかもこんな他愛のない会話をしてくれる彼の優しさがありがたい。

 

『全然。私が勝手に押しかけたのよっ。』

 

『またまた〜。【彼】テレやさんだからっハハハハッッ。』

 

『ははっ。確かに。でも、ホント。勝手に押しかけたのよ。

彼からは怪我のことな〜んにも連絡来てないし、こうやって会っても聞いてない()

怪我してから私のことなんて、ほんの一秒だって思ったこと無いと思うよ。』

これは本当。私の本心。

 

『まさかっっ。きっと一番に会いたいっって思ったんじゃないっすかね〜。

僕だったらそうですし、きっとそうですよ〜。』

彼は笑顔でこう言ってくれた。

 

『やさしいこと言ってくれるね〜!

ん〜。でも、本当に彼はそういう人!もし、自分が怪我できない公演で怪我しちゃって、

残りの公演、どうやって乗り切るか。皆にかけてしまった心配をどうやって取り除くか。

他の仕事もどうやったら穴を開けずに普段どおり変わらずに出来るか。

それしか考えてなかったと思うよ。

【彼女】としては、それはひょっとしたら悲しいと感じるところかも知れないけど、

でも、私は彼が怪我して、【彼女】を考えてしまうような人だったら、

【そんな男に興味は無いっっ!!】って感じかな()

 

『かっこいいなぁ〜。。。。。。。』

 

『でも、やっぱり、ちょっとは思い出してほしいじゃない?!

矛盾してるけど、私はここにいますよ〜っていうアピールをしに来たの()

 

『やっぱ、カッコイイ!!』

 

 

『ダレがカッコイイねん?』

と、濡れたままの髪を大雑把に拭きながら彼がシャワー室から戻ってきた。

 

『わあぁっっ!!!いやいや、お疲れ様ですっっ。

あっ。今日のあのタイミングのことでちょっと。。。』

 

シャワーを浴びた彼はもうすっかりいつもの彼で、

右手の親指だけがちょっと痛々しかったけど、元気なその笑顔で、

いつも通り後輩君を【いじる】姿を一目見られただけでも安心した。

 

今日はこの後も舞台がある。

元気な姿を見られたから、もう安心。

 

その時、マネージャーの長谷川さんが入ってきた。

『相手役さんが後で楽屋に来られるそうです。

服、ガウンでもいいからちゃんと着てくださいよ()

 

『さすがに、公共の場ではちゃんと着るで〜!』

 

なんて言う彼だけど、舞台後のシャワー後で暑いのか、ガウンの上半身は

すっかりはだけてしまっている。

こんな姿、共演の女優さんに見せられたもんじゃないな。

 

『じゃ、私はそろそろ行くな。』

 

『わっ。久々に沙織さんの関西弁聞いた!!』

と、後輩くん。

 

『どうして、僕には関西弁使ってくれないんですか?』

なんてかわいいこと言ってくれる。

 

『お〜。もう帰えんのか?もっとゆっくりしてけば?ってこの後も舞台やけど。』

 

『うん、明日仕事あるし。ほなね〜。』

 

『ん〜。じゃぁ、今日はサンキュ!』

 

楽屋を出た私を追って、後輩くんが出てきてくれた。

『沙織さん、マジっすか?もう帰るの?』

 

『だって、私はしがないOL。明日もしぃごぉとぉぉぉぉ。』

 

彼は心底驚いた顔で続けた。

『えっ。今日は何時に来たんですか?』

 

『開演中にお邪魔しちゃった。』

 

『へっ?じゃぁ、【彼】と会ったのは、終演後から今までのたったコレだけの時間?

それだけの為にここまで?』

 

沙織は本当に心からの笑顔でにっこり笑って

『それだけって()。私は彼の無事な姿を確認するために来たんだから!

それが見られただけで大満足!!』

 

『もうちょっとだけ…。他のメンバーも会いたがると思うし、

何より僕だけが沙織さんに会ったって言ったら、なんていわれるかっっ』

 

と、まんざらお世辞でもない様子で引き止める後輩くんを笑顔で見つめて沙織は続けた。

 

『うん。ありがと。でも、共演の女優さん、もうすぐ来るでしょ?

ここは劇場。その女優さんが【彼】のことを思ってくれてる場所。

いくらプライベートでは違うといっても、劇場内に…しかも楽屋に【オンナ】

がいたら、テンション下がるっしょ?!()

 

そういって、沙織は手をひらひらと振って後輩君の目の前から消えていった。

最初に入った廊下からは既に女優さんの声が聞こえていたので、別の廊下から。。。

 

『やっぱり、【ステキな女性】だなぁ。。。』

そんな思いで彼女を見送ったのだった。

 

 

帰りの新幹線。

あぁ、もうソワレの幕が開いたな。

元気そうで安心した。

ありがとうって言ってくれて、本当に嬉しかった。

彼のくにょっって崩れた笑顔、やっぱりかわいかった。

ありがとうって抱きしめてくれた。

オレンジの香り、気に入ってくれてありがとう。。。。。。

 

そんなことを考えながら、いつしかステキな夢を見た。

 

 

後日。

例の小百合から

『見たで〜wwww。うひょひょひょ〜』

 

と、言うメール。

彼女には、心配してくれてありがとうという内容と、劇場まで足を運んだこと、彼が

結構元気だったこと、アロマランプを差し入れたこと、

舞台は変わらず幕が開いていたことを伝えていた。

 

彼女からのメールはそれを受けて、更に彼のレギュラー番組を見てのものだった。

その番組内で

 

『王子、今日はなんだかいい匂いがするね。

と、いうかいつもいい匂いだけど、今日はフルーティーな…。』

 

そこですかさず相方くんが

『おまえ、あれやろ。前から好きみたいやったけど、最近楽屋でアレ焚いてるやん、

アロマ?!お前、バニラとか好きやったけど、最近オレンジばっかやな。

あれ、え〜匂いやけど。』

 

『あ〜、ん〜。』

 

『おまえ、風呂はいるとき、キャンドル焚いたり、そんなとこだけ【女の子】やな()

 

そこには相変わらずくにゃっと笑った彼の愛すべき笑顔があった。

 

 

 

―――――END―――――

 

 

いやぁ、急に思い立って、一気に書き上げてしまいました。

全くの妄想の世界です。

全くのフィクションです、ご理解いただけると思いますが()

実際はこんなことも無く、頑張って舞台をこなされているとおもいますが、なんとなくこんなストーリーが思い浮かんでカタチに残してしまいました。

お恥ずかしや、お恥ずかしや。。。。。

 

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