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【彼】は今、舞台の仕事中。
その舞台というのが、「怪我はつきもの」「かすり傷ぐらいは怪我のうちにはいらない」
というくらいのハードなものなのである。
もちろん、アクションだけがウリの舞台ではなく、しっかりストーリーも見せてくれるその舞台は
毎年好評で、もう何年も再演が繰り返されている。
沙織ももちろん見に行った。
でも、沙織にも仕事があるし、遠距離だし、そうそう見にいけるものではない。
舞台中は体力も消耗するし、もちろん気力だって消耗する。
会いに行けばもちろん喜んで相手をしてくれることがわかっているからこそ
【彼女】だなんて特権を振りかざして会いに行きたくないし、
そんな時間があれば少しでも休養してほしい。
なんて…。
わかったフリをしてみたりしている。。。
本当は会いたいけど、彼が舞台に集中できるようにすることも、自分の出来る精一杯の応援だと思っている。
じゃぁ、何故、今東京行きの新幹線に乗っているのか ―――――。
『メールありがと。実は今日同僚の送別会で連絡できなくてゴメン。
ケガって何のこと?』
帰りの電車で小百合に送ったメールに、速攻返事が返ってきた。
『今日ネットで見かけてんけど、舞台中に血が出てたらしいで。詳細はわからへんけど。。。何か彼から連絡来てる?
知ってたらええけど、まだやったら知らせておいたほうが良いかと思って。』
小百合は唯一私達のことを知っている親友。
心配して教えてくれたのだ。
『あー。そうなんや。ありがと。知らんかったわ(笑)。ホンマ、サンキュ♪助かった。聞いてみるわ(^^)v』
そして、今、東京に向かうべく新幹線に乗っている。
彼からはもちろん(?!)連絡は来ていない。
多分、どんな怪我をしたって、公演中は「こんなのケガのうちに入らない」って言うだろうし
そう思わないとあんなに長丁場の舞台
しかもハードな舞台を座長としてこなすことはムリだろう。
私からも連絡はしていない。
『ケガしたの?大丈夫?』
なんて電話したって、メールしたって
『全然』
って帰ってくるのは確実だから。
でも、やっぱり心配。
こんなときくらい、会いに行ってもいいじゃない?
わがまま…かな?
会社休んで、怒られるかな?
昨日家に帰ってからネットで色々調べたけれど
まだウワサの段階を抜け出していない彼の怪我の状況はわからないし、心配は募るばかり。
彼に聞いたところで、きっと大丈夫を言うだけだし、やっぱりこの目で確かめたい。
こんなんじゃ、仕事にいっても手につかないし、普段真面目に働いてる(つもりだ)から
たまに有給使ってもバチもあたらないか!
と、思い切って、昨日遅くに彼のマネージャーさんに連絡を取った。
彼のマネージャーの長谷川さんは私たちのことを公には出来ないけれど応援してくれていて、何かと頼りになる。
『明日会いに行きたいのですが、楽屋におじゃましてもいいですか?』
怪我のことを悟ってくれたであろう長谷川さんからは
『楽屋口に伝えておきますんで、いつでも来て下さい』
というやさしいものだった。
今日は13時から公演がある。
公演前に会うのも、邪魔するようで悪いので、2幕が開いて、彼が終演まで楽屋に戻らない頃にお邪魔しよう。
こうして、今、新幹線に乗っている。